つばさひめ
木立 悟

 


病めるものたちが
殺めるものたちが
羽の手に触れようとやってくる
細く赤い髪の毛が
かすかに肩を撫でている
ひろげたふたつの腕のなかには
目を閉じた笑みが咲いている
ほとばしるものすべてが羽になり
からだのまわりをはばたいている


激しく降り立つ白と黒の鳥が
水の上に血の輪をつくり
はじかれるように飛び立ってゆく
血は溶け落ち
次々と薄い輪を重ね
水しぶきに生まれた過去のなかで
荒地の娘と虚空の娘が見つめあう


夜の風のなかから
たくさんのものが誘いかけている
空にあるものが皆
恐ろしい速さで 火を発しながら
道に書かれた文字の上に落ちてくる
けだものに守られ
途切れずにあるもののなかに
かつては空を知っていた
翼の姫の言葉がある







自由詩 つばさひめ Copyright 木立 悟 2005-07-15 17:06:16
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