夕涼み
マッドビースト


 果たされなかった約束の面影や
 叶えられなかった願いの欠片達が
 光の飛沫になってとび
 漂い
 空気に溶けて香る
 夏の夕べ

 深呼吸すれば
 また私の中に戻ってくる
 今度は体に溶けて私も夏の一部

 さよなら
 という言葉は陽炎のようだ
 いつも出てくるのは小説のなかだけで
 母や先生に習った挨拶だけれども
 ほんとうのさよならを口にしたことは
 きっとまだない

 果たされなかった約束の面影や
 叶えられなかった願いの欠片たちを
 送るための花火
 火は光より強引で今に留まろうとしている
 今を留めようとしている
 笑顔は露光され
 私も今に留まりたいと思っている

 触れた地面はまだ昼間の熱で暖かい
 さよならという言葉は陽炎のようだ
 揺らめいていて近づくと遠く
 その向こうがあることなどどうでもいい

 生まれる春や
 染まりいく秋
 身を抱きしめる冬ではなくて
 そう構えずに
 呟くのだと思う
 この言葉は
 悲壮な決意など欲しくない 

 何気なく空を見上げる余裕のある夏の夕べだからこそ
 
 さよなら 


未詩・独白 夕涼み Copyright マッドビースト 2005-07-13 21:10:54
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