カエル交響曲no5
蜜 花

おっきなカエルが枕元に立って
コートの襟を直しながら
鼻の穴をヒクヒク ゲコゲコ


寒い季節になりました
子供たちを運ぶのを
手伝っていただけませんか?


あたしは目をパチクリ


なあに、ほんの少しですから


カエルはあたしにバケツを手渡します

ネグリジェの裾が気になります
白のオーガンジーなのに
道はドロドロ 足は裸足


大きなみずたまりに行き着くと
カエルはコートを脱いでザブン!
あたしはそっと覗きます


水面は揺れてキラキラ
中にはたくさんの音符
あたしの目にチカチカします


カエルはお水から出てくると
コートを着て 襟を正します

そして
おっきな襟の後ろから 
白いタクトを取り出すと
あたしにペコリとおじぎして
ちいさなタクトをゆらします


音を奏でながら 小さな音符
水たまりからあふれ出す


溢れてはバケツへ


奏でてはバケツへ


カエルは気持ち良さそうです



ベートーベンの交響曲です
それは一分の狂いもなく
フルオーケストラで


うっとりしているあたしをよそに
交響曲は途中で終わり
カエルはポトリとタクトを落とす


深くため息をつくと
大きな口でにんまり ゲコゲコ


今年はここまでなのです
水が汚れすぎてしまって
子供が育たなかったので


来年また お聴かせしますね


カエルはコートを脱ぎ捨てて
あたしの持ってるバケツにドボン!


あたしはタクトを拾い上げ
コートの襟に直します


バケツは誰にも見つからないように
ネグリジェの中に隠して帰ろう



また、来年ね







自由詩 カエル交響曲no5 Copyright 蜜 花 2005-07-12 20:03:32
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