記憶の断片小説続編・ロードムービー「卒業」
虹村 凌

第3ニューロン 「勝手にしやがれ」

 惚れてしまったものはどうしようもない。しかし、問題がある。
友達の女だ、って事である。これもどうしようもない。
どうにかなるもんじゃない。どうにかするもんでもない。
しかし、このまま悶々としていても仕方がない。
にっちもさっちも行かなくなって、ブルドッグ顔で詩を書いた。
正直に、お前の女に惚れてるって言った。
そしたら、どうだよ!笑って許してくれたよ!
「お前にはやらねぇ。でもいい女だろ?」
って。

 自分の中で、どうも時間感覚が麻痺していて、
これを言ったのが先だったか、電話番号などを聞いたのが先だったか定かでない。
もしも、俺が真面目に、これを小説にしようと思ったら、確かめてみようと思う。
…いや、電話番号を聞いたのが先だったと思う。そのはずだ。

 それから数日たったある日、俺は彼女と喋る機会を得た。
嘉人に用があって、彼の携帯に電話したのたが、出ないので、
舞子の携帯に電話したのだ。ドキドキものだった。凄く緊張した。
激しい緊張と共に、激しい喜びを感じていた。手が震えていたのを覚えている。
久しぶりに聞く彼女の声はやはり、とても可愛くて、可愛かった。

 嘉人はいた。舞子とイチャついてて、電話に出なかったそうだ。
電話口で軽口を叩きながら、俺は用件を彼に伝えて、電話を切った。
たったそれだけの会話で幸せになれちゃう人間だった。人間だった。
俺の制作速度は加速度的に増した。阿呆みたいに、腐ったラブソングばっか書いた。
書いても書いても枯れない。ノートが積み重なる。まとめて友達に渡す。
そして舞子がそれを読み、返事を書いて俺に寄越す。文通気分だ。
嘉人は何も言わなかった。彼もまた、返事を寄越した。


            I fucked them up

 俺がいなけりゃ、あいつ等は幸せにいただろう。
全ては俺の所為であり、俺の責任である。俺がその幸せを破壊したんである。
それも、俺がもっとも愛した手段、文字によって、致命傷を与えるにいたったのだ。

 俺は舞子と頻繁に連絡を取るようになった。以前のように緊張しなくなった。
馬鹿みたいに彼女にのめり込み、彼女の詩を書き続ける日が続いた。
誰もが避けて通る顔の俺に、彼女は優しかったから、惹かれた。
俺は家族以外の誰かに、甘えたかった。精神的に辛かった。死にたかった。
俺の顔は日々崩れ続け、朝起きる事さえ苦痛だった。
ただその中で、誰かを愛する事を知って、死ぬ事は止めようと思った。
恥ずかしい話だと思う。横恋慕でもって、生きようと思った。
人間として、俺自身が最も蔑む行為である。

 若さって何だ?振り向かない事なのか?省みない事なのか?
愛って何だ?躊躇わない事なのか?
チクショウ。チクショウ。チクショウ。

 幾度か、嘉人を交えて舞子に会った。そして俺は、彼女だけと会うまでになった。
まだ暑さの残る季節だったと思う。俺は、俺は、俺は。




散文(批評随筆小説等) 記憶の断片小説続編・ロードムービー「卒業」 Copyright 虹村 凌 2005-07-08 21:03:18
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