2005・7 雨の終わりの日記
千月 話子
この世界には もう
ひとつも乾いた場所など無い と
そんな風に思うほど
360度 水浸しの溢れ出る水槽です。
窓を開けると 外は白い縦線で埋まる巨大な水鏡で
映った私の全身から さらさら と流れ落ちる水分が
もう 70パーセント消えかけて
さよなら と手を振る暇もなく
その手の平から流れて 流れて
どこかの水底へ 涙ごと連れて行くのです。
窓を閉じて 部屋の奥へと逃げ行く私の
体に纏わり付く 水 すくっても すくっても
喉の渇きは 治まらなくて
足元から ひたひた と流れ行く体水が
表面張力をもって 楕円に固まる
幽霊ならば簡単に ス と消えてしまうと言うのに
私は、しつこいほど降る水の中で今 生きているのです。
ああ、、こんな日には
黒く湿った土の上で 固い決意と共に生き
逝ってしまった 美しい彼女を思い偲び
ああ、、こんな日には
曇り空さえ美しい そんな国で
44年生きている 小さな金魚の
リトル・ジョニーを 思い微笑む
両極端な 世界のニュースを私は手の中に持ち
ちり と肌に痛いくらい感じる お湯に浸り
明日の晴れ間を 探しながら
見えない太陽に その手をかざすのです。