柔らかい殻
いとう


揚子江の上流に見慣れない生き物がいて
現地の人は成人の儀式にそれを食べる
雨の降る夜はいつも
腹の中で卵が孵って
鼻の穴から糸が
するすると
巻き付いて
柔らかな
殻になる

殻の中は暖かいらしく
雨の降る夜はいつも
まるくなって
うずくまって
夫婦は抱き合って眠る
ひとつの殻に入るので
婚姻を結ぶことを現地では
「同殻」と呼んでいる

幼虫は糞と一緒に出るので
便所はなく
揚子江に垂れ流す
殻は湯で煮て
繊維をほぐして
織物に加工され
市場に出荷される



未詩・独白 柔らかい殻 Copyright いとう 2005-07-05 10:35:39縦
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