真面目なサングラス
虹村 凌

彼は毎朝同じ電車の同じドアに乗って
両手を吊り輪に掛けて電車に揺られている
周辺の女性の匂いに興奮しないように
なるべく呼吸を殺して

彼は何時もぴかぴかの革靴を履いていて
制服だって折り目が見えるものを毎日着用している
髪の毛だって綺麗に撫で付けて
髭をそり忘れた朝は無い

彼は何時だって人前では眠らないし放屁もしない
電車の中吊り広告や街を歩く女性で勃起する事も無い
自慰も三日に一度しかしないし
結婚するまで貞操は守り抜く気まんまんでいる

彼は何時も一番前の席で授業を受けていて
先生の質問には必ず答える
テストの点数は絶対に平均点以上で
先生や大人を失望させる事なんて無いんだ
だからサングラスを外さないでいられる


彼は運命の人を信じていて
惚れっぽいなんて人が信じられないと言うんだ
安っぽいミリオンセラーで涙する事も
くだらないドラマで目を真っ赤にする事も
信じられないって彼は言うんだ
でもサングラスの奥の彼の本当の目を
誰も見た事が無いんだ

真面目なサングラスは
人生に一度だけ人を愛して
その人にしか目を見せないんだと言う
その時に彼は真面目なサングラスである事をやめて
安っぽいドラマのような愛に涙を流すのだろう





そういう人間に、私はなりたくない。


自由詩 真面目なサングラス Copyright 虹村 凌 2005-06-26 15:30:00縦
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