溺れる
岡村明子

ボートから転げ落ちて溺れた
一人目の男は
すぐに飛び込みすくい上げてくれた

ボートから転げ落ちて溺れた
二人目の男は
携帯電話で助けを呼んでくれた

ボートから転げ落ちて溺れた
三人目の男は
何も言わずただ見ていた
泣いても
わめいても
顔色一つ変えずに

やがて私は疲れて
水底に足をつけて
溺れるのをやめた

日は暮れて

ずっしりと重くなった服を
水面にひきずるように
ボートへ歩いていった
男ははじめて手をさしのべて
私をボートへ乗せてくれた
身につけていたものをすべてはがし
私の体をボートに横たえた

いま
ふりそそぐ
月の光がボートを満たす
夜の底
絶えることのないゆらぎの中で
あたたかくやわらかく
私は溺れている



自由詩 溺れる Copyright 岡村明子 2003-12-06 12:19:30
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