夜の散歩
佐々宝砂

東の空はうすあかい
あちらには街があって駅があって
こんな夜更けにも
時折は貨物列車や寝台列車が通り過ぎ
その音がここまで響いてくるのは
雨が近いからだろう

ぼんやりした常夜灯の光の下
とつとつと
草の名前をとなえてみる
かやつりぐさ
かたばみ
すぎな
よめな
いまわたしの足の下にあるのは
しろつめくさ
その白い花が
あまり清らかでもなく
首を伸ばしている

草ぐさはすでに露を含み
サンダル履きの爪先は
濡れてしまった
肌寒いので自分で肩を抱く

道に沿う三日月沼のどこかから
「お」に濁点をつけたような声がする
牛蛙だろう
あれはあれで恋を語っているのだと
わたしはすこしおかしくなり
牛蛙の恋に
ひそかなエールを送る

見上げれば
鈍色の雲のあいだから
きっぱりした宇宙の漆黒が
わずかにのぞいて


 ああ かんむり座だ

  たしかに かんむり座だ

   ぼう と たよりなげな


あの
ちいさな弧にならぶ
うつくしい星の冠を
いま見上げているのは
わたしだけではないと
わたしは信じてもいいだろうか


自由詩 夜の散歩 Copyright 佐々宝砂 2005-06-05 00:00:02
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