吉三郎申す
佐々宝砂

駒込のお七付火之事、
此三月之事にて二十日時分よりさらされし也

おれは怖くてものも言えぬ
お七はさらされておるというに
あれはおれのせいかもしれぬと
口に出すことはとうていできぬこと

八百屋の下女のおゆきは
わざわざおれに言いにきた
お七様は付火の罪で獄門となり
さらされますと

お七や
おれはおまえの首を見にゆかぬ
さような恐ろしいことはおれにはできぬ
だがおれはおまえを忘れられぬ

焼け出されて寺にやってきて
悄然と俯いていたおまえ
色白な頬に汚れつき
後れ毛なまめかしく

恐ろしい罪人である
おまえの菩提を弔うために
僧形となったというに
おれは何をすべきかわからぬのだ

わからぬままおれは歩く
お遍路のごとく
しかし道標もなく
お七や
おれこそさらされるべきかもしれぬ



自由詩 吉三郎申す Copyright 佐々宝砂 2025-02-27 21:03:49
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