吉三郎申す
佐々宝砂
駒込のお七付火之事、
此三月之事にて二十日時分よりさらされし也
おれは怖くてものも言えぬ
お七はさらされておるというに
あれはおれのせいかもしれぬと
口に出すことはとうていできぬこと
八百屋の下女のおゆきは
わざわざおれに言いにきた
お七様は付火の罪で獄門となり
さらされますと
お七や
おれはおまえの首を見にゆかぬ
さような恐ろしいことはおれにはできぬ
だがおれはおまえを忘れられぬ
焼け出されて寺にやってきて
悄然と俯いていたおまえ
色白な頬に汚れつき
後れ毛なまめかしく
恐ろしい罪人である
おまえの菩提を弔うために
僧形となったというに
おれは何をすべきかわからぬのだ
わからぬままおれは歩く
お遍路のごとく
しかし道標もなく
お七や
おれこそさらされるべきかもしれぬ