春
夏井椋也
ポケットから出した手を
温んだ風の中で
大きく振りながら
まるで音色みたいな
あなたの名前を呼んだ
読み飽きた季節の頁が
温んだ風の中で
めくれるように
まるで花弁みたいな
あなたが振り返ろうとした
あなたは巡る
俯きがちな暮らしの
いくつもの四つ辻に
あらゆる袋小路に
わたしは狼狽える
ときめきとむず痒さを誘う
華やいだ眼差しに
香り立つ微笑みに
そして今年も
わたしはあなたを見失うだろう
わたしは未だにあなたの
後ろ姿しか見たことがない
自由詩
春
Copyright
夏井椋也
2025-02-27 18:48:39