トロイメライ
りつ

盲いた老女は
少し哀しげに家の家具を愛しく触れる

思い出がたくさん甦り
老女の顔に束の間
笑みが浮かぶ

お気に入りのオルゴール
夫との最初のデートで買って貰った

トロイメライの曲が静かに流れる

愛しい夫は既に亡く
子供たちも家庭を持っている

涙が1滴2滴
床に染み込む

けれど老女は喜ばしげににっこり笑う
自分の死期も、もう遠くない
神の門をくぐり最愛の夫が待つ世界へ旅立つのも
もうすぐだ

メロディが少し激しいのは
老女の鼓動のときめき
いつだって希望があることを老女は知っている


そしてオルゴールはゆっくりと終わり
余韻を楽しみながら

老女は大好きなダージリンティを
1口飲んだ


自由詩 トロイメライ Copyright りつ 2025-01-14 10:11:15
notebook Home