トロイメライ
りつ
盲いた老女は
少し哀しげに家の家具を愛しく触れる
思い出がたくさん甦り
老女の顔に束の間
笑みが浮かぶ
お気に入りのオルゴール
夫との最初のデートで買って貰った
トロイメライの曲が静かに流れる
愛しい夫は既に亡く
子供たちも家庭を持っている
涙が1滴2滴
床に染み込む
けれど老女は喜ばしげににっこり笑う
自分の死期も、もう遠くない
神の門をくぐり最愛の夫が待つ世界へ旅立つのも
もうすぐだ
メロディが少し激しいのは
老女の鼓動のときめき
いつだって希望があることを老女は知っている
そしてオルゴールはゆっくりと終わり
余韻を楽しみながら
老女は大好きなダージリンティを
1口飲んだ