寝起きの話
はるな
起きたら形を保てなくなっていた。
持ち上げた腕がとろりと流れ、指は境目を失い、膝を立てようにも重たく淀む。なんとか頭を起こして身体の様子を見られるようになるまで40分近くかかってしまった。
記号が、そこら中にばら撒かれて、足の踏み場もない。あれもこれも捨てなければならないか、と持ち上げると指のかたちに消滅していくのだった。
願った世界が、現れるとしたらこんなふうなのかもしれない。願ってもない現実しか過ごしてこなかったから、ちょっとどうしていいかわからない。ああ外に出れば、願っただろう願っただろうと指を差されて弾劾されるだろう。
外は、でも黄色に光りながら回転している。ゆっくりと、ねじれるように地平が混じり合っていく。あ、あそこで全部同じになるのか。わたしは理解する。無い形で、膨らむ頭で、すり潰されていく世界を理解する。
それって世界じゃないんじゃない?
と君が言うから、でも君は嘘で出来ていて、だからちゃんと人間の形をしている。
戻りぎわ、君が肯定することを望んでいる。
私は君の肯定のなかで息をするから。でも君は言わない、これが世界だと言わない。わたしは息をできない。どこにも息が残っていない。隅の存在しない部屋のなかで壁を目指して這っていくとき、形を取り戻しつつあるわたしの震え、まばたき、涙とか、質量に沿って、正しく倒れゆく意識、世界は光ってなんていないよね、そうだよ、もう一度眠っておいで。苦しい、眠ると疲れてしまうから、起きていることにしたんだ。大丈夫って君は言う、そんなわけない、消滅していくのだった、あれもこれもが、全部同じになる。