ねこになる日
静けさが恋しい

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(……)


 気持ちが楽で愉しい。


(ぼくはとても倖せなやつになっている)


 ぼんやりと見ていりゃぁいい。ヒトの感情の流れは矢のように他者へと突き刺さる。誰と誰がどのような関係性のなかでジレンマを抱えているのか。仲のよさもチカラ加減で決まるのだろうか。お友達の微調整ばかりで大変面倒なものだな。


 言葉にならない心の声をお聴きしたい。ずっと沈黙していて自由にしてくれるやつが好きだ。黙っていてもちゃんと居やがる。この世界で最も好きな生きものねこ。ねこのお気に入りとなったときは同族と認めてくれたようでぼくの心は踊り出す。


 歌も音楽もありふれていて少しも面白くないね。絵も映像もガラパゴス化した異世界みたいで退屈になった。パーソナルコンピュータがあれば携帯電話はスマートフォンぢゃなくていい。気持ち素直な文章を書いて日記のようにいつか死にたい。ぼくの平凡は未来のためにとっておくのだ。


 精神科慢性期病棟での入院生活に飽きている。希死念慮が落ち着くまで新たな一歩は得られない。今度の単独外出のときに古書を買いにバスでゆく。紙の本で聖書が読みたい。


 心を病んで誰とも仲良くしたくねぇ。仲良しごっこはつまんねぇ。間接的な自己犠牲の精神を活かせる現場は就労だ。納税してやらぁの精神で障碍をもって働くことでこの国の医療への恩返しができればいい。


 おじいちゃんのお肩身の腕時計。必要なものと欲しいものはパーソナルコンピュータと全自動式ねこトイレ。シンプルでワンパターンな暮らしをぼくは好む。制限された自由のなかで如何に工夫して暮らすか。もはや妥協はしない。門が開くまでまだ時間が必要なのだよ。


 陣取ってあるいつもの席で紙の本を読もう。耳栓にイヤマフもしくはヘッドフォン。焚き火の音でもぢんわりとお聴きしながら「少年老い易く学成り難し」を身をもって実感してゆこう。「一寸の光陰軽んずべからず」なのだから線香花火の人生を想い出すように軽やかにいずれ落ち着く定めなのさ。


 好きなやつはいつでもさりげない。パッと接してサッと離れてくれるやつ。ヒトでもそういうやつがいる。個人的な関係性はもうこりごりだよ。公的なお仕事の方との関わりだけの実生活がぼくに向いているのだろう。書も街も捨てないでのほほんとしていたい。


 退院してしたいことがある。自分のお部屋のうち鍵を閉めてひとりになること。


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散文(批評随筆小説等) ねこになる日 Copyright 静けさが恋しい 2024-12-08 19:01:44
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