唇の漏らす言葉のうた
秋葉竹
なにが正しいのかがわからなくなって
ただ黄緑の唇から言葉を漏らすだけになる
そういえば昨日のことさえまるで
想い出せないことが増えて来た
忘れられないひととの会話ややり取りが
切ないくらいに甘い追憶になっている
この身に降りそそぐ月光だけが
アルコールよりも涼やかな酔いを
胸に沁み込ませてくれるのは
たとえようもなく寂しい冬の夜だからか
知らない知らないなにも知らないと
首を横に振りつつ頑なに目を閉じて
甘美で綺麗でやさしいノクターンに
くみし抱かれて深い眠りにつきたい
なにが正しいのかがわからなくなって
ただ紅の唇から言葉を漏らすだけになる
正直に告白してしまうと神さまのことを
ほんのすこしは信じているんだ
どこのだれにも伝わらないこの言葉を
それでもごくたまに聴いてくれたりする
そしてなにより痛ましい過去の姿を
いつのまにか忘れさせてくれたりする
カレンダーがもうすぐ新しくなるから
おめでとうと口々で云いあう日が来る
はるか山中では猪や鹿や熊たちは
どれほど静かな優しさに包まれているのか
そんな運命の冬の夜には月光が降りそそぐ
静かな優しいそれでいて寂しい光が降る
なにが正しいのかがわからなくなって
ただ白銀の唇から言葉を漏らすだけになる