冬の垣根
リリー

 きっと 
 さむい朝だった
 口もとを曲げてぐずぐずしてる私は
 母に手を引かれ一軒家の自宅を出ます

 庭の垣根に糸の付いたミノムシが一匹

 若い母は指先で糸を摘み
 「ほら」
 やさしい眼差しで私の手のひらへ
 それを乗せてしまった

 まだ通い慣れない保育園
 私は手にするものを見つめるだけでなく
 おやゆびに指吸いのタコがある左手で
 握ってしまった

 やっと
 お迎えに来てくれた
 握られたままの左の指は解かれて
 「ああ……」
 低い声をもらした母の目が注がれる
 ノンちゃんの手のなかにあった
 ちいさな生命は、へしゃげて
 生あたたかくなっていた

 日はとっぷり暮れて
 手をつなぐ母娘が暗いお庭の垣根に
 帰り着く
 曖昧な記憶で覚えていない
 若い母は、あの潰れたミノムシを
 どうしたのでしょうか

 


自由詩 冬の垣根 Copyright リリー 2024-12-05 15:30:46
notebook Home