リアル
栗栖真理亜

テレビに映るにこやかな笑顔
介護の大変さなど微塵も見せず
嬉しそうに成功した親の介護を語るゲスト

母と私はため息をついた
(介護ってそんなに生易しいものじゃない)

祖母を介護していた頃の母はいつも切羽詰まった鬼のような顔をしていた
ある時など祖母がどこかへ「帰る」と言って聞かない為に
大喧嘩の末に母が祖母を追い出そうと廊下を引き擦り回した事があった
またある時は祖母が母の作った食事を拒否し
祖母と母とがお互いの手を抓り合った挙句
盛られたご飯はひっくり返され
匙はあらぬ方向へと飛んでいった
またある時は糞尿を垂れ流す祖母の下着を替えさせようとトイレに連れて行けば
祖母は手に擦り付けた自分の排泄物で手摺と壁をベタベタにさせた
そして寝たきりになった後も祖母はうまく寝返りが打てずに
背中にできた褥瘡が辛いのか
夜中に何度も「お願いしますお願いします」と
呻き声のような声を出しては横に寝ている私達を呼び付けて眠りを妨げた
ついには現実と妄想の区別が付かなくなって
「知らない男性がそこに立っている」などと
意味不明な言動まで繰り返すようになった
それでも母の兄達は一切援助しようともせず
結局は最期母一人の力で祖母の命の選択を決めなければならなかった

現実は詩のように美しくはない
ましてや介護など美しいだけで済む筈がない
絶えず迫り来る死と汚物の匂いを漂わせ
過酷と重労働の二重奏
甘い夢や馴れ合いなどそこには存在しない
ただそこにあるのは
お互いが人格の皮を剥ぎ赤恥すら脱ぎ捨てて真っ裸に生きた人間の有様だった


自由詩 リアル Copyright 栗栖真理亜 2024-11-23 15:21:28
notebook Home 戻る