傾(カブ)く者
栗栖真理亜

4年ほど前、「傾き者になりたい」と言っていた彼
その数ヶ月、後彼は舞台の上で赤い派手な着物を着て
見事、傾き者になってみせた
見る者を魅了させる
粋で艶やかな立ち姿

それから、月日は経ち
まるで憑き物が落ちたように上品になった彼は
他の者に傾き者を譲って
自分は色と欲とを天秤にかけていた

今でも彼が見栄を切れば
何人たりとも敵わぬものを
あえて、何食わぬ顔で子どものご機嫌伺い
時には奥方の尻を撫でて急場をしのいでいる

あぁ、まるで牙を抜いた猛獣
赤い着物の代わりに錦糸で織り込んだ柔な着物を着て
機械仕掛けの人形のように礼儀正しく
ハリボテの廊下を歩いてみせる
無表情な能面(カオ)の裏にほとばしる情熱をひた隠しながら

江戸の漢(オトコ)と生まれたからには
江戸の心意気を魅せなければ漢じゃない

それなのに勢いよく赤い火花を散らし
舞い上がる江戸の花火も虫の息
女性へのナンパは世界一

今日も元傾き者は
今夜の獲物(オカズ)を探して
深夜の街をうろつき回っている事だろう


自由詩 傾(カブ)く者 Copyright 栗栖真理亜 2024-11-19 19:22:04
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