リリー


 あれは欲求の充足が阻止されたことの
 一時的な怒りだったのか
 なんにも知ってはいなかった幼女の
 ヒステリックが沸点に至り

 あの時、
 一軒家の玄関ドアに嵌め込まれた
 デザインガラスの窓を
 素手で叩き割った衝動は謎めいていて
 右手首から噴き出てくるモノへ
 眼見ひらき泣きもせず
 見入ることで
 とらわれていたものから解放された

 耳には半狂乱な母の叫びが届く
 手首へキツく巻き付けられたタオルは見る間に染まり
 心に焼け焦げた灰が靄になってとざされ
 すべてが不確かなままの
 奇妙な傷痕
 
 あたしの怒りは
 あたしには見えなくて
 振りあげた拳の理由も何も覚えていない


自由詩Copyright リリー 2024-11-18 20:02:39
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