ウサギが亀を跨ぐとき
室町 礼

どういうわけか米を売っていないので
じゃがいもを食うことにする
イモサラダの日々だった
狭い台所に立ってじゃがいもを
ひとつ
小さなまな板の上に置く
巻き尺で測ると
縦5.5cm
横は8.0cm
食卓用計量器に載せると
重さは141gだった
匂いを嗅ぐと
農薬のような強烈な薬品臭がする
急いで水で洗い
ごしごし土を落とす

この色はなんというのだろ
じゃがいもの色を計測する装置はない
しかし言ってみたい
その色を口にしてみたいのだね
色彩図鑑をひろげてみると
インディアンイエローがそれに近い
牛にマンゴーの葉を食べさせ
その尿を濃縮してつくられた
インド産の色材がインデアンイエロー

男爵いもは白っぽい花
メークインはピンクがかった紫色
キタアカリはうすい赤紫色の
花をつける
わたしが買ってきたじゃがいもは
安価だけにあばただらけで
北海道では馬鈴薯(馬の鈴)というが
わたしのじゃがいものあばたは
ソラニンのせいなので
馬に食べさせると喉につまらせて
死ぬこともある

 たとえばゆるい幸せがだらっと続いたとする
 きっと悪い種が芽を出して
 もうさよならなんだ

これはアジカンの歌「ソラニン」だが
じゃがいもの芽にも毒があって
わたしもときどき頭が痛くなることがある
しかし最近は耐性がついたみたいだ
それで
蒸してみるとじゃがいもにしては
安納いものように黄みが強く
ほくほくに出来上がった

それをボウルに入れて潰し
胡瓜のみじん切りと
九州産茶美豚の焼き豚を刻んで
塩こしょうマヨネーズを
加えてまぜあわせる
こんなものをだれが考えたのか
悔しいけど絶妙の取り合わせだ
土まみれアバタだらけだった小さな
かたまりはいま
小皿に盛られて輝いている
ときどき頭が痛くなるけど
とうぶんはこれを食うしかない






自由詩 ウサギが亀を跨ぐとき Copyright 室町 礼 2024-10-31 08:19:52
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