定演
北村 守通

久しぶりに
花を買った
どんなのが良いのか
どういう風に選ぶものなのか
さっぱり
だったので
こんなものだろうかという
金額だけ伝えて
ぱっと
明るく咲いた
店員さんに
選んでもらった
なんだか
とっても嬉しそうで
張り切っていた
その顔が
少し
元気なくしぼんだので
予算の増額を了解するという
肥料を少し加えてみたら
再びぱっと
顔が開いて
元気に
元気に
うわの空の
ボクにかわって
素敵な花を
選んでくれた
組み合わせてくれた
素敵な花を
ぶら下げてみると
なんだか
ボクの顔も
咲きほこっているような気がした


久しぶりに
バウムクーヘンを買った
菓子というモノを
どういう風に選ぶものなのか
どんなのが良いのか
さっぱり
だったが
チーズケーキでは
ぐしゃぐしゃになりそうだったし
クッキーでは
少しさみしく思えたので
甘い瞳の
店員さんが
楽しそうに見守ってくれる中
バウムクーヘンを選んだ
ボクは
決してうまいとは思わない
栗焼酎をたっぷりしみこませたヤツを
周りの人たちは
それがうまいのだと
熱弁していたのを思い出して
そういうものなのかと
奮発して
栗焼酎入りのヤツを買った
店員さんは
嬉しそうに
包んでくれて
かわいいリボンで
仕上げてくれた
酒は酒
焼酎は焼酎
菓子は菓子
がいいよなと
思いつつも
そこは
ボクのために買った
バウムクーヘンではないので
黙って
なにも言わないことにしておいた
この世の中において
ボクが
ボクを主張することは
決して良くないことなのだということを
思い出したのだった


久しぶりに
ホールに来た
ステージは
ずっと向こうにあった
久しぶりに見る
ステージは
小さく
せまく
感じられたが
客席から見る
ステージは
小さく
せまく
感じられたが
それは
ステージに
久しく立っていなかったからであって
ステージから
離れてしまっているからであって
この
閉鎖的な
超空間を
想像して語り合った日々を
超空間の下で
生きてきたことを
忘れてしまっている
この体では
正確な距離感を掴めないのは
当たり前のことだと気が付いた
けれども
やっぱり
小さくて
せまいものだったのだろうかと
自分の記憶に自信を失いつつも
思い出そうとしながら
座席に
どっかと
もたれかかった
その
ひじ掛けの固さには
覚えがあった


花は
もう
受付にあって
ここにはなかった
バウムクーヘンは
もう
受付にあって
ここにはなかった
スポットライトに焦がされた日々は
あっちに
置きっぱなしになっていて
もう
ここにはなかった


自由詩 定演 Copyright 北村 守通 2024-09-25 00:01:54
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