祭囃子
本田憲嵩
にわか雨は上がった。その暑さは雨のせいか比較的やわらいでいる。空はもうすっかりとあかるい夏の水色になって、住宅街はとてもおだやか。そんななんとなく緩慢になる午後に、いくつもの陰りがついた。とおくの方では祭囃子の和太鼓の音が、そのかすんだような音量でおだやかな夏の風にのってこちらの方まで聞こえてくる。そのたびに毎年、ぼくはとてもはっとする。
――というかもう二十年以上も夏祭りになんて行っていない。金魚すくいで掬った金魚は、一週間もしないうちにあっという間に死なせてしまい、そしてそのあと庭の土へと埋葬した。太い針金とバネで拵えられたあのゴム鉄ぽうは一体どこにいってしまったんだろう?そして、とうとう一度たりとも食べることがなかったリンゴ飴やチョコバナナ、景品を射止めることが出来なかったひな壇上への射撃、さらには空高くへと舞い上がってしまったヘリウムガス入りの銀色の風船etc・・・。そんな風に、しろい綿菓子にいくつもの陰りがついたような、とても立体的になっている入道雲。