スイマーズ
そらの珊瑚

小学生のころ、夏休みになると海へよく行った

高学年になると波に挑む遊びをよくしたものだった
大きな波がきたとき、そびえ立つようなその壁のふところに飛び込んで
波を潜り抜けるという単純な遊び
ときおりヘマをして
砕けた波の中でぐるんぐるんと回りもみくちゃにされた
死ぬかもしれない、などと思いながら

鼻から入った塩水は痛くて
すっかり意気消沈し
手でとんとんと耳に入った水を抜きながら
砂浜の大きなパラソルの下で座ってる母のもとに帰ると
また唇が紫になってる! もっと早く帰ってきてよ
と怒られた
海のないところで育った母はたぶん泳げないのだろう
その証拠にいつも水着を着ていなかった
今、ちょっと死にそうになったなんて言えない
命をかけて波に挑むゲームは母には永遠にわからない

パラソルの下で海を眺める
そこかしこで波にもまれては敗北するこどもたち
勝ち続ける波のうねりは絶えることなく
あの夏わたしは何回か死んでそのたび複製しながら
のんきな母とスイカを食べた

群青の海
わきたつ入道雲
空をおよぐ鳥たち
水平線に浮かぶ小さな遠い島


自由詩 スイマーズ Copyright そらの珊瑚 2024-08-01 11:00:50
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