出不精の夏
本田憲嵩
時間がとてもながい、冷や麦を食べすぎた。虫捕りはさして珍しい虫が見つかるわけでもなく、数本しかないファミコンのゲームカセットももうとっくにやり飽きた。昼間の茶の間でコップに入った冷えた麦茶を飲みながら「週刊少年ジャンプ」を何冊もひろげている。絨毯の上に寝そべりながらそれらをだらしなく読んでいると「夏休みなんだから少しは外に出ていって遊んできなさい!」と母の不機嫌な声。ぼくはそんな母の言葉に思わず口答えをする。それを聞いて母はさらに不機嫌になる。不機嫌になってさらにぼくを激しく叱咤する。ぼくは負けじとさらに口答えする。母はさらにさらに不機嫌になって、さらにさらに激しく叱咤する。ぼくは負けじとさらにさらに口答えする。母はさらにさらにさらに不機嫌になって、さらにさらにさらに叱咤する。ぼくはさらにさらにさらに口答えする。そしてついに母は激しく激高する。ぼくは不貞腐れながらも仕方なく外に出る。あー熱い。夏空には大きな入道雲が怪獣の横顔に化けながらこちらを睨んでいる。