お盆
藤原絵理子
風鈴の短冊に書いた願い事
神社の参道に飾ってもらった
風にくるくる回って
思い出しているのは
遠い日にかすんだ夏祭り
知らなくてもいいことを
いっぱい知って
裸電球に輝いたはずの
ゆかたの柄も忘れてしまった
周りの人々からもらった笑顔さえ
透明の袋で泳ぐ金魚がかわいくて
浴衣の袖がびしょ濡れになった
何枚もポイを破って
一匹もすくえなかった少女に
スキンヘッドのおじさんは
二匹の金魚を透明の袋に入れてくれた
かごの蛍が死んで
べそをかいた少女の頭を
やさしく撫でた手は
遠いあちらの世界で
ひらひらと振るばかり
おりんを鳴らして
手を合わせれば
すさんだこころに面影と声が
帰っていく場所の
穏やかな風と香りを教える