見つめる声
ただのみきや
わたしは見た
立葵がゆれるのを
風の仕草を想いながら
わたしは見ている
だが今のものとは違う
ずっとむかし
でこぼこ道の端
夏草から抜きん出て
こちらを向いた
斜陽のせいか
どこか伏し目がちの
ちいさな顔の並んだ
あの花
わたしの幼心の卒塔婆
血のように赤い花びら
平らに裂いて
おでこや鼻に張りつけた
夕暮れの回らない風ぐるま
置き去りにされ
うす闇に暗く燃え残り
今もわたしを見つめている
あの夏の立葵
目はガラス玉
すべて獄屋に閉じ込めて
風はわたしの外に吹く
わたしの窓は閉じっぱなし
時は厚みを増すばかり
風がことばをまとわずに
世界の夢の中を行きめぐる
影法師なら
その無邪気な戯れ
見えない衝角こそ
上塗りを必要としない
哀しい産声だと
ああ紙のようにめくられ続け
うすく 濃く
ひややかな焦げ痕になって
家々の庭先に咲き誇る
花たちをすり抜けて
掠める蜂の羽音のよう
遠くなり
めまいに変わる
幽霊たち
座標なき痛点の膨らみよ
(2024年7月14日)