北山杉
リリー

 嵐の夜
 いく本かの北山杉が
 悲鳴もあげずに倒れた

 十四歳だった私が
 暗い峠を越えた山間地の
 北山杉は
 鋭く尖ってざわめいて
 無垢な翼を持った時代のおもいで

 嵐の夜
 郷の樹々の中で
 いつまでも美しい杉だけが、
 ひっそりと
 役目を果たした事を知った様に
 倒れ伏した

 私は遠く街に居て
 それを感じた
 醜い欲望に取りつかれ
 もはや神秘な性をすら持たない女
 もし、杉の前に立てたなら
 泣いていただろう

 
 


自由詩 北山杉 Copyright リリー 2024-07-14 10:36:07
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