愛の完成-SSへ
田井英祐
貴方と舌が結ばれないままに
呼びあえぬ愛し名は
予兆と非在の間に燃え立つ
痙攣する青薔薇
可能性を孕む
貴方の呼び名に
呼応が匂い立ち
対話が開かれる
此方から彼方へ流れる
絶えることのない時の流れのもとに
生と死の輪廻の交差が
臨界するまま
世界は編まれて
君から僕−僕から貴方へと
生命は繋がれて
ある。
ある。
君は時おりそれを信じないが、
確かにそれはある。
始まりの営みは
夕日と海が交わる夜に始まり
愛に終わった。
僕らが生まれた六五〇〇年前の
愛の果てに
君は編まれてある。
僕は名前を呼ぶ。君は応じる。
呼応の果てに世界は開かれて今ここにある。
もしも世界が、
名づけられることにより
始まったというのなら
きっと
愛しい者に名前を呼ばれた時
僕らは生まれた
幾千億の朝と幾千億の夜の明け暮れ
貴方と君の幾千億の愛の交錯
生命の螺旋軸の幾億交差が
僕らのたった一つきりの名前により
証明され
それは愛の公式にふさわしい。
僕らの舌が結ばれ、
二人が名前を呼び合うなかで
愛は編まれて
僕ら二人の間に
君は完成する。