ロックre仮
竜門勇気


押しつぶしているバネ
七月
二十四年間のゆっくりとした沈黙

災害に焼けた記憶の中の顔
誰かのにやけた顔に降る雪
消えていった人たち
新しくてひどく冷たい雪

ロックを聴いていた日
七月
窓の外で死者が運び出されていく

誰かの知り合いで
誰かの子供だった
誰かの親で
ぼくの外側の葬列が弔う

押しつぶすバネ
行き交う空気
背比べする植物
同じ土から生えたくせに
零れ落ちた時間が少し違うだけのくせに

押しつぶしてバネ
振れる針を抱え込んで
割れて床に落ちた樹脂のかけら
きみは誰の子供だ?
誰を殺すために生まれてきたんだ?
七月
歪んだバネ
元に戻らない圧縮
揺れてる
転がり落ちる
圧縮の果てになんの力もなくなる

壊れたもんは
極限の圧縮のなれの果てだ
壊すのは圧縮だ

ロックを聴いていた
あんたは今圧縮されている
ほとんど元の姿がわからないくらい
そうして星が一つできて
地球は軽くなる

子供が一人
神様に抱えられて
どっかいっちまった
百年後には誰も思い出せない
元の姿なんてわからない
過ぎ去る情報の波形のなかに
彼方に行ったものを想像する時
少し横切る死者に含まれる部分

売られたことがないから
大麻を吸ったことがないだけだろ
売られたことがないから
シャブ食ったことがないだけだろ
ロックを聴く
誰かが押しつぶすバネ
どうでもいい
極限まで圧縮されたバネ


自由詩 ロックre仮 Copyright 竜門勇気 2024-07-12 23:45:20
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