『万人鉱物-コモン君の悪夢』 2023年改稿版
田井英祐

燃える水田の稲穂を前に
たたずむお前の
横にいる
黒光りをしている万水鉱物
私の立っている場所から
そいつの顔は見えない
あなたはそいつに微笑みかける
私に解らぬ言葉を開きながら
私はあなたとそいつの勾引しあうリズムの間隙に
あなたに向かって信号を送るーーー
ーーー失われた言葉を軸にして
あなたは私に向かって微笑みかけるーーー
ーーー自明の言葉で閉ざしながら
私とあなたとの間に立ちはだかる田泥化芽罹厭
私はー言葉を、私の言葉を矛に変え
それに挑みかかる
あなたを求めて
切り裂いた蔓たちから噴き出る
薄緑の用水に包まれた自明の言葉
万水鉱物
私はそれを、私は纏はりつく万水鉱物を、
切り、壊し、抉り、拉ぎ、
進む、進め!
失われた言葉を呻きながら
私は声を上げた!
その声が、
声を張り上げさせた肺が、
肺を構成する細胞が、
細胞の構成を考えた遺伝子が、
遺伝子の組み合わせを考えた運命が、
運命を成り立たせた歴史が、
この私の流れが、
万水鉱物に触れたことにより逆流する!
私は声を上げた!
声を上げることにより肺が膨らみ
肺が膨らむ事により細胞が分裂し、
細胞が分裂することにより遺伝子が複製し、
遺伝子が複製することにより運命が変わり、
運命が変わることにより、
歴史が変わる!
声を発することにより変わるのならば私は、
声を上げ、
貴方を、
しかし私の言葉は失われている!
ーーーッ! 叫、狂声!
私の足があなた達のいる方に辿り着いた時
蒼く瀕死たる馬に
乗った
狂人に
私は鎌槍で
首を
砕かれた
私の首から
噴き出た
言葉達が
世界に触れた


自由詩 『万人鉱物-コモン君の悪夢』 2023年改稿版 Copyright 田井英祐 2024-07-10 14:43:13
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