海螺珠の心臓
あらい

               何重にもある足を腕で抱える

                      子守唄だろう、
                 すっかり とおくなった

                円のしたで 視覚のうえで


  ひらいたまぶたがつぶれた眼球に軟らかいから
  夜雨の外れを研き、ひなたの肌を解く 
  は 皮革の肢体をえぐります

(しろあめのヴィジョン)

地を踏み固める、てのひらは器具だった
救いようがないパラフィン紙が受胎したパビリオン
(くらくらとしたわをん)
こわれたりはがれたりした 破片、渇いた造形美
未完成または不完全な 一片、あれは 玩具のザン



未完遺稿――残存断片物――名――断章
『どうしたら恋をしてくれますか』



     べったりとしたぬすびと
       へたってて、それだから光が届かない
       鋭利な喃語で鮮明な
       旋律を掛け接ぎする
       自由な因子こそ
     ずぶりとしたかっか
       錆びた円形の、落下した外側
       ごちゃとしなう
       赫く埃と悼み、黄昏よう
     ぐらぶらととつるりと、
         うえをめざした、
         だから華侈遺風カシイフウ
         記憶のあとでは
         住めば都もないのだけれど
           この子を抱いている
           ある獣の揺籃
           傷跡ばかりが愛おしいから
           孕んだ跡の残滓
     ごろんとしてかちりとした
       芯のないたわわとでもいおうか
       何本もの脊椎の群れが
       白夜の絨毯でうたた寝している


   褥の傍らにぬるい息を重ね 泡沫の色彩を懐かしく聴く
   狭く苦しい陽翠ヨウスイの、聖文をなぞり。水琴窟が終わるとき




月経の紅葉 (エロスは博打を好まない)
   ひらかない、またのくせにこちらを見つめている
腸詰めの桜 (ぴかれすくろまん)
   しめつけ。ちぐる。なんにもならけて、
金木犀の中絶(ぎらぎらとした、ちんば)
   おばけよりおそろしいもの 顔を歪めた星譚




            祈りも殺した季節を躯で憶えている
                反転した砂時計を製糸する
               烙印の在り処は鼻歌に重ねる




海螺珠コンクパールの心臓/シルエットはかた




           たとえば、裏庭の 屋根裏
             かさぶたのうみは砂嵐がなかった
           あと、空腹のさなかにあって、
                でたらめの十五夜に夢見て、
           また、ささばたけの雪女はとおくなる
                  ながかった 老婆の屍


自由詩 海螺珠の心臓 Copyright あらい 2023-11-24 08:21:42
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