勤労感謝の夕日
本田憲嵩
減量中なのでとても持て余してしまう。ような。平日の合間に棚から牡丹餅のように挟まれた、けれどなんにもない、そんな祝日には、少しだけとおくにある鶴の村の露天風呂へと向かう。プラスティックの日常とはちがう、鮫肌のような岩肌の背中に背中を合わせて、岩のようにこりこりに凝り固まった肩や首まで湯に浸かり、赤い炎に染まった細ながい水の卓上で、ちょうど赤い夕日と向かい合わせになる。無言の談笑を交わす。(お疲れさん)(おたがいにね)。そうして、赤いサウナに入りさらに汗をかき、ふたたび露天風呂へと向かう、彼はもうすでに地平線の向こう側へと帰宅していた。いくつかの小さな灯篭にはもうすでに電光が灯っている。冷たい夏のような冬の風が簾のように空っぽになっている僕の身体に、とても爽やかに吹き抜けてゆく。古い竹柵の向こう側からは丹頂鶴の一声。そんな刹那の幸福論。(でもおれ不死鳥だから)(おれもさ)。