無重力の殺意
菊西 夕座
詩をさがしても必シになることはない
糸をたらして蜘蛛のようにおりてくる
視点と蜘蛛の交差点の上に支点がある
蜘蛛を息でゆらしても支点はぶれない
背と腹を交互にむけながらまわる蜘蛛
あたかも死と生がくり返される悲喜劇
電気でも消すように蜘蛛を下にひくと
支点からまた一匹の蜘蛛がおりてくる
引けば引くほどつみかさなる黒い貝殻
いつのまにか蜘蛛が巻貝に転じている
やすやすとあたえられる生殺与奪権を
やすやすと行使して貝をトイレに流す
無重力の殺意が罪の意識をゼロにする
それをくつがえせるのは詩だけであり
詩点はいつのまにか私を宙吊りにして
私の口から言葉の糸をぶらぶらさせた
口蓋は繁殖力の旺盛な泡ふき貝となり
抜き身が舌となって饒舌に這いまわる
目は蜘蛛にかわって穴から抜けだすと
糸ひく口から地上の便器へぶらさがる
虚空で盲目となった私は体内を殻にし
刀を抜かれた鞘のごとき洞を這いずり
外にみた仮象の世界をぼんやり象って
くりぬく鋳型に夜の寝床をこしらえる