手紙
由比良 倖

ねえ、まゆさん、そこは寒いですか?
この世界の終わりは、僕には懐かしい
世界には鏡のような川や、一万年も時を経た石造りの建物があるといいます
それでも僕には、まっすぐに張り詰めた白い凧糸の方が美しい
それは天国まで続き、雨の日の笑顔を手繰り寄せる、

あなたはどうですか?
僕は棺にアップルパイを入れて欲しいと思うことがあります
特に好きでもないのだけど、温かい、
白いアップルパイを

さよなら、さよなら、
さよなら、とこんにちは、は似ていますね
さよならは、世界の消滅なんかじゃあり得ない

ねえ、まゆさん、そこには友達はいますか?
あなたはまだ若いから寂しいかも知れない
それとも、いまだ手紙魔でしょうか? 僕はブログをいくつも開設しました
僕に手紙をくださいましたか?、僕はそれを読んだでしょうか?

あなたの墓前に咲いた花、それが僕です
宇宙の底の、地球の底の、夜の底の、すみれ色の薄明の底で
あなたは眼の中に満月を抱いたまま
銀河系のように
眠り続ける

理由も問わず

あなたの透明な眠り

ねえまゆさん、ハッピーエンドなんか最初からありはしなかった
宇宙は立体の影
宇宙には五十億の見えない光が存在しているとブッダは言っていました
それはきっと緑色の文字で書かれていて

死にたいほど悲しいとき
夢も見られないくらい悲しいとき
どうかあなたは僕の中のシグナルを
奪ってください

さようなら
笑みと笑み
十月の中の白い、張り詰めた息

十月の空の中で、あなたを見付けたら(多分、お見かけできると思うのです)
僕はきっと歌を送ります
思いっきり
デジタルな歌を、ノイジーなギターを
レコード盤にして、風に乗せて

でも、今はまだ、さようなら
消失の中では
未知だけが真実ですね

僕がこの世の向こう側で
笑みを「ハロー」っていう電波で
あなたに送れる日まで

そのときまでは、さようなら

僕の中の精一杯の
笑みを
この手紙に込めて。


自由詩 手紙 Copyright 由比良 倖 2023-10-06 13:43:10
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