長月の頃
リリー

 会社の敷地内に植わる樹々の緑
 仰ぎ見る 折り重なったイチョウの葉っぱから
 顔のぞかせている黄色味がかった実

 「今年、実が大きいですよ!」
 詰所の更衣室で先輩へ報告する朝
 「そうなん!じゃあ、今年も拾いに行くわ。」
 銀杏拾いが好きな彼女
 昨年 きれいに洗った実を皆んなにも分けてくれた

 紙封筒に入れて
 粗塩ふりかけて電子レンジで数十秒加熱すると
 殻が剥きやすくなり ホクホクの実を
 おやつで食べた休憩時間

 先輩と逢うまでは
 料亭の懐石や茶碗蒸しに入ってる実しか
 知らなかった

 高くなった空の 青へ
 飛びたって
 行かんとする様な黄金色の枝葉 
 眺めみる事はあっても
 褪せゆく緑のイチョウに成っている実の大きさなんて
 意識した事も無かったのだ

 涼風に茂る草の間 
 ひそむ虫たちが聞くだろう
 実の落ちる音
 まだ もう少し先だから待ちどおしく思う此の頃
 
 


自由詩 長月の頃 Copyright リリー 2023-09-29 05:45:53
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