むすびめほとけて
武下愛
ガラスを溶かし流し込んだら色付けして。散りばめられた色を際立たせるように空に返した。空が呼吸するたびにきらめくのは、夜明かりだからかもしれない。太陽と呼ばれる、一閃はまだまだ訪れない。際立たせる鏡であるのはいつも月なのかもしれない。流し込まれたガラスはいつの間にかそうぞうのままに形を成していく。ありのまま。いつかはイルカだったし、何時かはスズランだったし、何時かはもみの木だった。今ではなすべきことの意味を、問わずにいる。何に見えるのか問うてくるように。ガラスが変幻していく。ガラスと言っているだけでなんなのかは、はっきりとわかっていない。言葉として扱う上でガラスという言葉が絶妙な区別を付けたのであって、ガラスではないのかもしれない。月明かりの中で明滅するガラスに私は名前を付けることをやめた。その代わりに奏でたメロディを送ると。ガラスから凛とした音が聞こえる。その音が散らばっては消えていく。その合間に、私はガラスの名前を考えていた。星音海と呼ぶ事にしたのであった。星音海と語らっていると淡い色立ちばかりが身についていくのだけど。原色ばかりを身にまとった私には少し物足りなく感じていた。重なる月日がその淡さを濃く際立たせて、段々と色付く世界の中で。星音海からして私が何だったのか。良く分からずにいる。結ぶということが縛るということをしってるから。星音海は約束を嫌った。私は嫌っているとわかっていたので、口にする事はなかった。内側にため込んだむすび目が意味を成す。行動に表れて。星音海を欠けさせてしまったのだ。その傷口に触れて。痛みと共に流血して、これがむずび目を付けてしまう事だと、私は星音海から学んだ。欠けた部分が丸みを帯びるように怪我をしても何度も撫でた。その都度星音海は違う所が割れていたのだと、私は数年経って知っていった。ひび割れた星音海に私が掛けた言葉はただ一言。
「星音海が星音海を縛っているじゃない。縛らないという事を縛っているじゃない」
星音海が離れて消えてくと思ってた。でもぽろぽろと流れた言葉は。いまだに残ってる。誰かに教える気はないけど。それでも交わした言葉達が息を吹き返すように。それ以上になって星音海は世界に彩を加えている。傷だらけの自分はむすび目を解く方法を知らずに。様々な出会いを果たしていくんだろうと。旅たちの時を見守って。その背が一閃の太陽が訪れるころ、星音海は違う所へ行ってしまった。固く結ぶのは自身の事だけでいいんだよって言えずに。居たけれど。いつか自分で気づくと思ってる。って繊細な星音海という、むすびめほとけて。