様変わり
千波 一也
国道沿いの店が
またひとつ閉まるらしい
馴染みの店ではないから
暮らしに困ったりはしないが
こみ上げてくるのは
素直な寂しさだ
どうすることも出来ない
寂しさだ
この街にとって
私の重要さは定かでないが
この街の一部である私を
私は知っている
住み慣れているうちに
この街の一部一部が
私と同じになったことを
私は知っている
見慣れた風景が寂れてしまうのは
私をも寂れさせるようだ
私の何かが失くなるようだ
私が欠けてゆくようだ
行き場のない不安が胸に満ちると
時は逆流を始める
懐かしさに浸りなさい、と
時は巻き戻る
十日のうちに
無人の建物がまた増えるだろう
十日のうちに
記憶の中にだけ住まうものが
また増えるだろう
だがそれも
いつか必ず消えてゆく
むしろ
今この瞬間から
少しずつ薄らいでいる
消えることを
始めている
思えば私は
消す側だったのかも知れなくて
ならば順当に
消される側になった
そういうことだろう
何もかもを求めて
変わることを喜んで
誰かを記憶に落としこむような
消す側だったかも知れない私は
様変わりしてゆく景色の傍らで
消えることを
始めている
この世に
生まれ落ちた瞬間から
決まっていたことなのだろうけれど
知らずにいたのは
幸いなこと
今ならようやく
受け流せそう
致し方なく
抗えるはずもなく
ただただ受け流せそう
いつか誰かに語られる者として
忘れ去られる者として