アイソニアの騎士、立つ(八)
朧月夜
「本当の悪党でも良い。俺には、なさなくてはいけないことがある」
「それはそれで良いのでしょう。しかし、エインスベル様も、
あなたとは違う『なすべきこと』を抱えていると存じます……」
「今はエインスベルの名前は出すな!」
アイソニアの騎士は、いらだたしげに地面の石を蹴った。
今、エインスベルは自分の主人ではない。
雇い主としての責務と定めを、エインスベルも放擲しているはずだった。
(エインスベルは本当にクールラントのためを思っているのか?)
だとしたら、エインスベルは変わった、とアイソニアの騎士は思った。
エインスベルは、己が運命を宿命のようにとらえていた。
叔母、ミーガンテへの復讐。それが彼女のすべての行動指針だったはずだ。
しかし、今は違うのか? エインスベルは何を考えている?
アイソニアの騎士は、己の立場とエインスベルの立場との間に引き裂かれて、苛立った。
(今の俺には、お前よりも、この世界よりも大切なものがあるのだ)
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クールラントの詩