それぞれの孤独
朧月夜

眠れない夜 眠れない夜。
窓の外には月明かりが照らしている。
その一方で、
西の国では大風が吹いている。

雨は来るのか?
雨は来るのか?
期待と不安の狭間で、

心は風鈴のような微かな音を、
金魚すくいの屋台の夕べに、
ただ少しの耳を傾けている。

そこにいるの?
そこにいるのか?
北国のナマハゲ、罪を求めて。
(そんなことは分かっているはずさ……)

ただ恐怖の代表のように、
彼らは鎮座していれば良い。

眠れない。
ああ、眠れないよ。
常になにかが胸を圧迫して、
息苦しい窒息の境へと誘う。

そう。今日はただ、
眠らなければ良かった。
そして、病院のレクリエーション・ルームのように、

全てを受け入れ、全てを諦めて、
大海を泳ぐちいさな魚の群れのように、
ただ、見上げる月を見上げていれば良かった。

声を失った人魚のように、
ただ一瞬の休息にまかせていれば良かった。
春は去ったね。夏は去ったね。
僕たちの食べごろは今?

ああ、僕たちの居場所はどこに?
ただ、月の明かりを見ていれば良いのだろうか?
ただ、深海魚のように沈黙していれば良いのか?

いずれにしても、答えは出ない。
答えなど出してはいけないのだ、と、
先刻の人魚が僕たちに語り掛けてさった。

月は明るい。月は明るいよ。
せめて、暁の時が明日まで訪れませんように。
何もないのだ──きっと。

何もないのだ、きっと。
見上げる月が一人孤独であるように、
皆それぞれがそれぞれの孤独を託つ。


自由詩 それぞれの孤独 Copyright 朧月夜 2023-07-11 02:52:08
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