湑む
あらい

まるで横顔の女だ

睫毛の長い、髪の黒い若い女が真直に背を凭れ眠っているのだろうか
一瞬通り過ぎた車窓に、何を隠そうとして、いま、不意に見せたのだろう

 これによって古く細い町並みは直線を辿り
 私は、ここに降り立ったのだと思っている
 その上、もうすぐに夕闇が帰ってくる
 灯りがポツポツと路面を濡めらすと、知っていて


  浅黒い手に抱かれるしろいかたまりが、
  意外なほど こちらを覗いている。
  獣じみた髪をもち、まるで対価のように
  地ベタに寝そべる 隠花植物と受け止める


ペルソナを棄て、夜の闇に紛れ込む 聖杯に値し
沢山のパラソルが吊られている、モノクロの夢だ
雨の遊園地に置き忘れた、手と足を探しては供える
その形態が鮮明に伝染り出す 僅かな洪水
紅殻の香華など 使われてはおらず


自由詩 湑む Copyright あらい 2023-05-17 22:15:11
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