アンサンブル
リリー

 十重奏デクテットな鈴虫の競い鳴きに
 飲んだアイスコーヒーのグラスもそのまま微睡む 
 日暮れ前

 曇りならば昼間でも鳴く
 それは八重奏オクテットから七重奏セプテットに変わり
 ぼんやり
 ブランチのカフェオレをノンシュガーで口にした

 六重奏曲セクステットから五重奏クインテットに変わった音色
 寅の正刻、目覚めた私は
 ミネラルウォーターにレモンを半分絞って飲んだ

 音色がまだカルテットだった時
 風呂上がり 点けようとしたテレビのリモコンを
 手から離した
 洗い髪をタオルに包み 冷蔵庫から取り出す麦茶
 耳に弦楽四重奏が心地良く響いていた

 音色はトリオ 時たま一人鳴きになった時
 しきりに覗きはじめた鈴虫ケース

 デュオで鳴く 雨の朝、
 ストッキングに足先が引っかかる出勤前
 テレビのニュース番組でさえも音を消す様になった

 そしてソロになったら もう、
 休日
 何も手につかないほど哀しくなった
 それ以来一度も
 鈴虫を飼うことはない。


自由詩 アンサンブル Copyright リリー 2023-05-15 15:28:35
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