月の寺の男
リリー

 酔った男が管を巻いている
 青い月の光の中に
 しわがれた声で管を巻いている
 ヨロヨロと時によろめいて
 松の根方に坐りこんでしまうのだが
 男の声は途絶えない

 月の光りの流れの中に
 男の声は悲痛な叫びの様にも聞こえる
 寺のきざはしの蔭から
 遠いさざ波の様にその声が帰って来る

 長い時間
 男は時に叫び 時に呟いていた
 酔いのさめてきたらしい男は
 小刻みに震えていた

 男の震え方は次第次第 大きくなっていった
 まるで波のうねりにまきこまれた様に
 男は瞳の奥迄 震えていた

 月の光は益々鮮やかになったのに
 一ヶ所に釘づけになった 男の影が、
 震えながら何処かに拡がっていくのが見えた

 拡がりながら消えていく影を男は追おうともしなかった


自由詩 月の寺の男 Copyright リリー 2023-05-12 10:37:33縦
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