FLOWER COMES FROM NOTHING.
竜門勇気

痩せた犬が
俺の家の裏口で
乾いた口を波打たせ
最後の餌をねだってる

縞々のブラウスと
古びたコーデュロイの
最新型の古びた服で
着飾る母がドアを蹴る
冷たい音を立てて
錆びたドアノブが揺れた
こめかみに時間が流れて
叫び声は更に大きくドアを打った

そんなに不愉快なら
今すぐその酒瓶で
何発かぶちのめせばいいだろ
それでおわり。
あんたは最悪であっちも最悪の気分だ
何も起きなかったのと同じさ
いくつかのコップが割れる
あとふたつ。
俺たちが手のひらで
水をすくって飲むようになるまで
あとふたつ、それでおわり。

酔っ払ってるか
寝てるか
それだけの違いしかない
昔話をどうやってするのか忘れてる
何を思い出しちゃいけないのか
何を喜んでいいのか忘れてる

あんたはいつも
酔っ払ってるし
でなきゃ寝てる
シラフで最後に
交わした言葉が
「あとふたつ、それでおわり。」

痩せた犬はぼやけた唾を
ヤニ垂れたガラスに飛ばす
ガリガリと伸び切った爪が宙を掻く
煮立った薬缶の中で
ベトベトした何かがあぶくをたてて
目に見えない不吉を
換気扇に流し込んでいる

俺はいつも
酔っ払ってるか
何か気に食わないものを
床に叩きつけているだけ
めちゃくちゃになった家を
引き裂こうと喚くあいつだけが
まともなんだ

あとふたつ、それでおわり。
夏が来てその後はなにもない
ナッシング・カム・フロム・ナッシング
そして無でないものだって
何も産まないこともある
悲鳴が聞こえない靴箱
みんな耳を澄ましてる
どこかへ出かけようなんて
そんな気分をぶっ壊してやるよ



自由詩 FLOWER COMES FROM NOTHING. Copyright 竜門勇気 2023-05-09 15:19:44
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