朝市
リリー


 近所の大手スーパーの出入口横手に
 地元農家の主婦たちによる行商で
 人集りができている

 休日 何とは無し
 その溢れる活気へ混じり気分良くのぞいてみる

 あれ?もう無いの、日野菜漬け。この間美味しかったわ。
 さっき、最後のが売れたんよ。
 ええっ、来週来はる?

 折りたたみ式長机の端に立つ
 日焼けした顔で ちょっと背を丸めたエプロン姿の
 おばあちゃん
 挨拶でも私に か細い声で答えてくれたけど

 ごめんな。赤かぶら、どうや?同じようなもんやで。

 机上に種類別で陳列されているお漬け物の一袋を
 手に取って差し出し、半額にするから食べてみてと言う

 厚みある皮膚の小さな掌が、手渡した五十円硬貨を
 しっかり握った

 うん。じゃあ今日は、新漬け沢庵と壬生菜にするわ。

 白い手提げのビニール袋へ それをおさめてくれながら
 目を細める 春の日だまりの様な笑顔は
 「姉ちゃん、ありがとうな。また来てやあ!」
 声も 地声になっていた

 帰ったら炊きたてご飯と、この漬け物でブランチといこう
 お味噌汁の具は何にしようか
 考えるだけで
 ほんわかしてくる 心持ちの朝だった




自由詩 朝市 Copyright リリー 2023-05-05 15:23:22
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