黒の女王
秋葉竹

  

『鏡よ、鏡?』

尋ねつづけたあの女は
実は
《その》衝撃の前日まで
《世界で一番美しい女性》であったし

その、

気も狂うような事実を告げられた日も
実は
《世界で二番目には美しい女性》では
あったんだよ

何十億分の
二位
だよ?


でも、
だからなんだと云うんだ


あたしは、
いちばん以外に
なんらの価値を
見いださないんだと

云うなら、
美しさの基準を
どこに置いているのか知らないけど

そんな、あなたよりも
賢い女性も
優しい女性も
カッコいい女性も
好かれる女性も
いっぱい、いるよ?

美しさ、って
万国共通じゃないのって、
いったい、
あの女は
知っていたのだろうか?

もし僕が
あの女のそばにいられるものならば
なぜ
二位ではいけないのかと
尋ねたい

あの女と白い雪の姫は
おそらく
血が繋がっていない親子なんだろうけど

そんなの
関係なく
人は、産まれ、
人は、育ち、
人は、変わり、
人は、老いる。

その、
老いることが《美》を
損ねることになるなんて
断ずるなんて
やっぱ鏡は、
ただの無機物だよ?

そんな鏡の
断ずる審美に
なんの
価値があるのかと

問いたい、のです。

白い雪の姫を
嫌うのは
あるいは、そんな彼女を妬むのは
実は、その《美しさ》じゃないでしょう?

ただその
《若さ》が、妬ましいのでしょう?

人は、
かならず、
いずれ、
《老いる》
のに。

その、
現実を
《殺》したかったんでしょう?
ほんとうは。

鏡よ、鏡。ホントのことを
云っても、良いよ?

人は、かならず、老いる、のです。
その、老い、の、
境界線が、
今日なのです。
だから、
かの姫に、
その姫の若さに、
負けたのです。



そうして、だから、僕は、
その女の悲しみに
心をすり寄せて、しまうのだ

だって、その
白い雪の姫も、
いつか灰色になったり
漆黒になったり
するかもしれない

ただの
なにも知らない
なにも、していない
ヤツなんだから。



僕はいっそ、
その女のその悲しみを
少しでも
ほんの
たった、少しだけでも
僕のくちびるで、
吸いあげてあげたいと
想うのだ。

漆黒の、
女よ。

僕の目には君の
悲しいほどの、気高さしか視えない

そんな、君を、さ。

ねぇ、

漆黒の、
女よ。

好きに、なっては、いけないかい?








自由詩 黒の女王 Copyright 秋葉竹 2023-04-08 23:20:20
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