RAIN SONG。
田中宏輔

アハッ


雨のなか、走ってきたよ

出された水をぐっと飲み込んで

プロポーズした

でもきみは

窓の外は目まぐるしく動いているから

せめてわたしたちはこのままでいましょうねって

アハッ

バカだな、オレって



  *



カサのなか


カサのなかでは
きみの声がはっきりと聞こえる

雨はフィルターのように
いらないものを取り除いてくれる

ぼくの耳に入ってくるのは
ただきみの声だけ



  *



雨の日、あの日。


市松模様の
歩道の敷石の上を
きょうは白、きょうは黒、と選んで
一面ごとに跳び越えてみたりした
幼い頃

雨の日、あの日
ぼくはママといっしょに
歩いてた

カサは一本しかなくって
アーケードが途切れるたびに
ママはぼくの腕をとって
歩いた

ぼくは、ぼくの腕をつかんだ
ママの指の感触がこそばったくて
こそばったくて、恥ずかしかったけど
だけど、とっても、うれしかった

ぼくを産んでくれたひとを追い出した
パパを憎むことよりも
血のつながりのない
ママを憎むほうが容易だった
ぼく
ぼくはパパの代わりにママを憎んでた
パパには憎しみを直接向けることをしないで
容易に憎むことのできたママを憎んでた
そうしてパパを責めてたつもりだった
ぼくはとても卑劣な子供だった

雨の日、あの日
ぼくはママといっしょに
歩いてた

あの日、ぼくは
敷石の上を跳び越えなかった

ぼくは、ぼくが
ママのことを好きだったんだってこと
ずっと前から気がついてたけど
いや、そうじゃないかなって
思ったことがあるだけなんだけど
雨の日、あの日
ぼくにははっきりわかったんだ
ぼくは、ぼくが
ママのことが好きだったんだってこと

雨の日、あの日
ぼくはママといっしょに
歩いた

あの日、ぼくは
なるべく、ゆっくりと歩いた


自由詩 RAIN SONG。 Copyright 田中宏輔 2023-04-03 00:28:06
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