原君
XIAO
夜の上水を歩く時に目の前の暗黒と後ろの暗黒の継ぎ目がなくなる
ごうごうごう、と発電機が鳴る場所の街灯はずっと夜のままだ
欅の大きな木が暗黒を作っていた、そうわかったのは月が見えたからだ
塾の帰りに原君とこんな話をした
いま、見ている景色以外のところはぜんぶ暗黒なんじゃないか
原君は怖いと言って自転車を早くこいだ、こいで、こいだ
塾の先生はすぐに殴るから嫌だった
今ならわかるけど先生は怖かったんだ、教室には窓がなかったから
郷土の森美術館で売っていた水晶のペンダントを原君にプレゼントした
あれからずっと会っていないし、見ている景色以外はずっと暗黒のまま
水晶を通した月明かりが少しだけ原君を照らしているといいな
原君はバンド活動に夢中になって大学を二回留年したらしい
見ている景色が暗黒じゃなくてよかった
原君はバンド活動で大学を二回留年した
塾の先生は今も殴っているだろうか、それとも