地図と蓄音機
ただのみきや

コンパスは串刺しの太陽を食らう
インクの肢体その所作に風で眼を濯ぎながら
めくれる笑顔の残像が染みになる鈴を吐き戻す娘の青い蝸牛菅で
処方されなかった秘密は気刻みに棘を起てる時計
流れに垂直の火柱が帆船みたいに両手を広げて歪な影を牽引し
灰壺の灰に横たわる小指が息絶えるのを見守っていた

トカゲは影を衣にして光を飾りにする
足裏でまさぐっている遺骨の中できみはたくさんの花をつけるだろう
青空には過去も未来もなく眼差しを溺れさせる無関心だけがあった
だが「永遠」と記された飛行船は近づいては遠ざかるベビーメリー
決して学習することのないわたしは溶けた鏡 日照りの逃げ水
熾火が灰になるそれが歌であり血を旅するこの旗こそが女神の嘯き

虚空に斜塔の陰影を刻む者よ
鈴の海に沈むひとつの叫び娘の泥の肢体から気化した夢が抜けてゆく
ことばの神経網は水草の根にとって代わる無垢な口づけの
嵐が星を落とすふさがれている冷たい魚の口で脱がされた顔
時計は帰る死者の果肉を匂わせながら歯車を燃やす水族館として
爆ぜるサインが鎌首をもたげ渦巻く殻を恋い慕う



                           (2023年3月18日)










自由詩 地図と蓄音機 Copyright ただのみきや 2023-03-19 00:25:03
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