雨の音
由比良 倖
雨は不思議な音楽で、
僕の書物も溶けてしまった
何も知らない暗さの中で……
太陽なんて望みはしない
雨音の中で滲んだ、真っ赤なギター
ギターの音色、粒立ち消えていく世界
僕は母なる大地の子だけれど
僕は母とは違う存在
僕がゆくのは雨の彼方の
静かな異国、淡い街の灯
英語を知って、ドイツ語を知り、
フランス語も知ったら
雨の向こうに行けるだろうか?
滲むギターの冷たい弦を、指でなぞって。
汚れきった声と身体と、
向精神薬に汚れた心、
それでも僕は行けるというの?
雨は不思議な音楽で、
僕は何にも、過去の記憶を持ってない
いきたいのです、しにたいのです、
ああ、
活字で出来た世界の中の、
僕の世界の、僕の街。
雨は不思議な音楽で、
僕のページと奏でる音は、
いまだ無限に開かれている。
人生と命の底の、心の泉に雫が落ちて、
ふと気付きます、今この場所が彼方なのだと。
生きるのでしょう、この雨の中、
雨や言葉に、感謝しながら……