雨の音
由比良 倖

雨は不思議な音楽で、
僕の書物も溶けてしまった

何も知らない暗さの中で……
太陽なんて望みはしない
雨音の中で滲んだ、真っ赤なギター
ギターの音色、粒立ち消えていく世界

僕は母なる大地の子だけれど
僕は母とは違う存在
僕がゆくのは雨の彼方の
静かな異国、淡い街の灯

英語を知って、ドイツ語を知り、
フランス語も知ったら
雨の向こうに行けるだろうか?
滲むギターの冷たい弦を、指でなぞって。

汚れきった声と身体と、
向精神薬に汚れた心、
それでも僕は行けるというの?

雨は不思議な音楽で、
僕は何にも、過去の記憶を持ってない

いきたいのです、しにたいのです、

ああ、
活字で出来た世界の中の、
僕の世界の、僕の街。

雨は不思議な音楽で、
僕のページと奏でる音は、
いまだ無限に開かれている。

人生と命の底の、心の泉に雫が落ちて、
ふと気付きます、今この場所が彼方なのだと。

生きるのでしょう、この雨の中、
雨や言葉に、感謝しながら……


自由詩 雨の音 Copyright 由比良 倖 2023-03-17 23:07:26縦
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