ひるまどき
よるもと

-ええですか。鼻は、息から吸いましょう。

先生がそう言うもんじゃから、教科書たてて、ほえぇと、ぽかあんと、緑色の黒板を見とった。

-bは空気ちゅうに浮かんで、そんなかから、aを見つけるんや。aをな。

bは空気ちゅうにおびただしくあって、でもその小さな整列が、わたしには気持ちようしてしゃあない。

ああ、先生。好きです。bが。 

椅子をぬめらかに、たちあがろう、そいであたしは、いおうね。

aなんかありません、てな。

みんな、閃光弾でも喰らったみたいに、くああと目をみひらいて、教室のくうきの新鮮さが痛いみたいに、舌が痺れた、そしてぱあくりぃ、とくちびるとくちをひらくんやなあ。

どうや、あたしは観音さまになった気分で、すべてのしろきいろい光をうけとめるように、ひたりとくちびるの端があがってしまう。

せんせえ。aは、ありません。

先生は黒いジャージをしゃかしゃかいわせて、その場から、立ち去りたいよなあ。

チョークが、粉砕して、煙幕になる。

ああ、bしか、あらへんで。

重なるバラけた拍手がたたみかかって、雨じゃ。制服はぬれそぼうて。

やあ、やあ、律儀なみなさん。
席から、たちあがりません?
そないでええとおもう子は、たちあがりな。

こきゅう。

b

整列のb
おびただ、ただしきb

b。

ハアなんてこった給食。給食のにおい。
給食袋おっことしていませんこと、わああ。
たべんきゃ。たべんきゃ。
ああたべんきゃ。

食わねば死ぬ。おまえたち、死ぬで。
わいら殺してなんになるん。食わねば、死ぬで。ああ、死ぬで。

血が霧のように、スプリンクラーと、粉じゃ。

呆けた給食当番、みんな白いままやなあ。

ハア。じゅう、にじ。
時計見よったら、せんせえ、目えつけるかなあ。

す、は、す。
す、は、す、は、過呼吸。
す、は、す、は、す、は、す、は、過呼吸。
す、す、すす、す、すすすすすすすす、ススス、過呼吸。
ア゛ア゛地獄。のどのやけど、ひりひり、ひりつくいたみ、つく。もえつきて、内臓の、底を、焼きつく、つくね、焼きつくね。
をかじって、スプラッタ。

-せんせえ。鼻は、息から、吸いましょね。

-そんなことはありません。息は、……アレ、息って、どっから吸いましたっけ?

-ほらせんせえ。ゆうこともたいがいにせんと。

-そもそも息って、なんですのん。くうき?
くうきはbに占拠されとるから、そのすきまかあいだば、吸おうね。ね、くうきって、かみさま?
くうきって、かみさま?

金魚、やんなあ。

アタシ火のはんたいは水とか、いうひときもちわるいねん。火の、はんたいは空気やねん。

どうぶつは火ぃさ、吸いましょ。

よるのやみ。

赤赤燃えて、よるのやみ。 

あっつうぅくあっつうぅく煌々なア、
踊り狂よう、もりのなか。

赤赤燃えて、よるのやみ。
ひかりかがやくひとのさま。
赤赤燃えて、よるのやみ。

よるのやみのなか、赤赤と。
赤赤燃えて、火はおどる。

よるのやみ。
火。
よるのやみ。
赤。





・・・


ほうら起きんさい、でバタバタと生徒は教室をたちまわって、なんや、がやがやしとるなァ。

なアんにも、あらへん。

国語も、bも、くうきも、せんせえも、なアんも。

あるのは白っぽいひるまどき、そうや、あたしはダサくてかっちりな、みょうーな夏服を着ているのだった。カタくて、うごきにくいやつ、な。
みょうに。

ア、給食やよ、って、佳穂ちゃんがいうとって、そいであたしは、椅子からたちあがった。


自由詩 ひるまどき Copyright よるもと 2023-03-05 14:02:23
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